東京高等裁判所 昭和54年(行ケ)101号 判決
原告の主張する審決の取消事由の存否について検討する。
1 その1の主張について
原告は、本願発明における「第二の溶接部」は、「炭素鋼用の溶接金属」から形成されるものでなければならないと主張し、被告は、そのように推定することはできないと主張する。
よつて検討するに、本願発明が、耐食性金属ストリツプが固着された炭素鋼のストリツプからパイプを螺旋状に形成し、その螺旋状縁を溶接するに際し、螺旋状の継目に沿つて生じる脆い金属間化合物の形成を避けることを目的とするものであることは、成立に争いのない甲第四号証の一(本願発明の明細書)の記載、殊に、その第四頁第四行~第六行の、「これは螺旋状の継目に沿つて該継目を弱くすることのある脆い金属間化合物の形成を避けるために重要である。」との記載によつて、これを認めることができる。
ところで、金属間化合物は種類の異なる金属材料の間で形成されるものであるか、前掲甲第四号証の一によれば、本願発明の明細書には、一貫して、第二の溶接部が炭素鋼ストリツプ内にとどまるように形成される旨記載されており、また、その図面(第二図)も第一の溶接部と第二の溶接部とが異なる材質よりなることを示していることが認められるから、本願発明において、第一の溶接部と第二の溶接部とがそれぞれ異なる金属材料よりなることは明らかである。
そして、一般に、溶接に際して溶接すべき材料と接合し易い溶接材料を用いて溶接を行なうことは当然の事理というべきであるから、本願発明においても、第二の溶接を行なうべき材料である炭素鋼のストリツプの溶接に際し、炭素鋼用の溶接金属を用いることは当然のことというべきである。
したがつて、本願発明における「第二の溶接部」は、原告主張のように、炭素鋼用の溶接金属より形成されるものと認めるのが相当である。
2 その2の主張について
(一) 原告は、引用例二の記載は、本願発明の構成要素のうちの「耐食性金属の隣接する螺旋状縁を耐食性金属で溶接して外側炭素鋼のストリツプの中に入る第一の溶接部を形成し」という点、特に、「耐食性金属の溶接部が炭素鋼ストリツプの中に入る」ことを示すものではないから、審決の認定は誤りで、あると主張する。
よつて検討するに、成立に争いのない甲第二号証によれば、引用例二の第六四六頁第四行~第九行には、「厚さ三・五~四・五mmの中厚板は鋼板側に開先を作つてここを軟鋼用溶接体で溶接し、クラツド側の溶滓を充分除去し、直径三mmの特殊溶接棒で一層溶接するのが普通であるが、盲突合せとし、最初にクラツド側つぎに鋼側を溶接することもある。」との記載が存することが認められるところ、右文章中の、「盲突合せとし、最初にクラツド側、つぎに鋼側を溶接することもある。」との文節は、その前に位置する「厚さ三・五~四・五mmの……(中略)・普通であるが、」との文節に続くものであるから、これら二つの文節は両者を関連づけて理解すべきものである。そうすれば、「盲突合せとし、最初にクラツド側、つぎに鋼側を溶接することもある。」との文節自体には、使用する溶接棒の材質が示されているところはないけれども、この文節をその前の文節と関連づけて読めば、クラツド側の溶接には当然特殊溶接棒を、鋼側の溶接には当然軟鋼用溶接棒を用いることを意味しているものと理解することができる。
また、前掲甲第二号証によれば、右の中厚板クラツド鋼の溶接要領を図示した第六四六頁、第四四・四図下段の図面には、クラツド側に、「棒径二mm(25―12または25―20)」との表示がされていることが認められ、この「(25―12または25―20)」の表示が二五クロム―一二ニツケル不銹鋼又は二五クロム―二〇ニツケル不銹鋼よりなる溶接棒を意味することは、右第四四・四図上段の図面における「(25Cr―12Niまたは25―20)」とある記載及び引用例二の第六四九頁第四行~第五行の、「二五―二〇または二五―一二のオーステナイト系溶接棒を使用する。」との記載から明らかである。
そうすれば、引用例二の第六四六頁第七行~第八行の記載は、「盲突合せとし、最初にクラツド側を特殊溶接棒(二五クロム―一二ニツケル不銹鋼又は二五クロム―二〇ニツケル不銹鋼よりなる溶接棒)で溶接することもある」と理解すべきものである。
また、中厚板クラツド鋼においては、耐食性金属の層の厚さは、炭素鋼の層の厚さと較べて遥かに薄いものであることは顕著な事実であるから、溶接に際しては、好むと好まざるとに拘らず、耐食性金属ストリツプの溶接部が炭素鋼ストリツプの中に入り込むことは技術上当然の事理であつて、引用例二のものにおいても、最初にクラツド側を溶接する場合には、耐食性金属の溶接部が炭素鋼側に侵入するものとみるのが妥当である。
以上のとおりで、引用例二には、本願発明の構成要素のうちの、「耐食性金属の隣接する螺旋状縁を耐食性金属で溶接して外側炭素鋼のストリツプの中に入る第一の溶接部を形成し」との点が示されているということができるから、原告の主張は理由がない。
(二) 原告は、引用例二には、そのどこにも、本願発明における「第二の溶接部が炭素鋼内にとどまるようにすること」が記載されていないのであるから、審決の認定は誤りであると主張する。
しかしながら、中厚板クラツド鋼について、最初にクラツド側を溶接した場合に耐食性金属の溶接部が鋼側に侵入することが引用例二に示されていることは前記(一)の項に既述のとおりであるから、クラツド側の溶接に続いて行なわれる鋼側の溶接に際して、第二の溶接部が鋼側のストリツプ内にとどまるように行なうことは当然のことというべく、原告の指摘する事項は引用例に示唆されているということができるから、原告の主張は理由がない。
(三) 原告は、審決が、引用例二の記載から第二の溶接部が炭素鋼用の溶接金属で形成されることが容易に想到しうるかどうかについて検討することなく引用例二の各記載は本願発明の構成要素のすべてを示唆するものと認定したのは誤りであると主張する。
しかしながら、引用例二において、中厚板のクラツド側の溶接のつぎに行なわれる鋼側の溶接、すなわち第二の溶接が、炭素鋼である軟鋼用溶接棒を用いて行なうものと認められることは前記(一)の項に既述のとおりであり、他方、本願発明における第二の溶接部も炭素鋼用の溶接金属より形成されるものであることは前記1の項に既述のとおりである。
そして、審決は、右のような引用例二に記載の技術的事項と本願発明とを比較して、本願発明の構成要素のうちの溶接金属に関する点も引用例二に記載されていると認定しているのであるから、すべてを検討したうえでの結論であつて、原告の主張は理由がない。
(四) 原告は、引用例二には本願発明における構成要素のうちの、「第一の溶接部に入る第二の溶接部を形成する」点について何らの記載も示唆もないから、審決がこの点について何ら検討することなく結論を出したのは誤りであると主張する。
しかしながら、前掲甲第二号証によれば、引用例二の第六四六頁第一六行~第一七行には、「軟鋼側溶込みを制限する。」、第六四八頁第三行~第四行には、「合金母材を軟鋼棒で溶接した場合の溶着金属はその中へ一〇~四〇%合金が入り」との記載のあることが認められるのであつて、これらの記載から明らかなように、板状体の表裏両面から溶接する場合に、第一の溶接部に入る第二の溶接部が形成されることは必然的に行われることであり、引用例二に記載の場合においても、当然に、第一の溶接部に入る第二の溶接部が形成されていると解することができる。したがつて、右の点について審決が何らの検討もせずに結論を出したという原告の主張は理由がない。
3 その3の主張について
原告は、審決が本願発明の進歩性についての判断を誤つていると主張する。
よつて検討するに、本願発明における、「同じ幅の耐食性金属のストリツプを固着された炭素鋼のストリツプを形成し、耐食性金属で内周を形成しつつ前記ストリツプからパイプを螺旋状に形成し、螺旋状縁を溶接して耐食性パイプを形成する」点が引用例一に示されていることは、原告の明らかに争わないところである。
そして、前記2の(一)(二)の項で既述のように、本願発明における、「耐食性金属の隣接する螺旋状縁を耐食性金属で溶接して外側炭素鋼のストリツプの中に入る第一の溶接部を形成し」の点及び「第二の溶接部が炭素鋼内にとどまるようにする」点は引用例二に示唆されており、しかも、引用例一及び二に記載の技術は、いずれも共にバイメタルの溶接に関するものであるから、引用例一の耐食性パイプの製造に際して引用例二の溶接技術を採用することは、当業者が容易になしうることというべきである。原告の指摘する作用効果も、右の構成に伴ない当然予測される範囲にとどまるものであつて、その範囲を超えた顕著なものとするのは当らない。
したがつて、本願発明の進歩性を否定した審決の判断に誤りはなく、原告の主張は理由がない。
よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却することとする。
〔編註〕 本項発明の要旨は左のとおりである。
同じ幅の耐食性金属のストリツプを固着された炭素鋼のストリツプを形成し、耐食性金属で内周を形成しつつ前記ストリツプからパイプを螺旋状に形成し、耐食性金属の隣接する螺旋状縁を耐食性金属で溶接して外側炭素鋼のストリツプの中に入る第一の溶接部を形成し、次に炭素鋼ストリツプの隣接する螺旋状縁を溶接して第一の溶接部には入るが全体的に炭素鋼ストリツプ内にとどまる第二の溶接部を形成する段階より成る耐食性パイプの形成方法。